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夏りょうこの空想映画館

ある女流作家の罪と罰

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原題:Can You Ever Forgive Me?

2018/アメリカ/106分

監督:マリエル・ヘラー

出演:メリッサ・マッカーシー リチャード・E・グラント

受賞歴:ゴールデングローブ賞最優秀主演女優賞・最優秀助演男優賞ノミネート アカデミー賞主演女優賞助演男優賞・脚色賞ノミネート

あらすじ

かつてベストセラー作家だったリーは、今ではアルコールに溺れて仕事も続かず、家賃も滞納するなど、すっかり落ちぶれていた。どん底の生活から抜け出すため、大切にとっていた大女優キャサリン・ヘプバーンからの手紙を古書店に売ったリーは、セレブからの手紙がコレクター相手に高値で売れることに味をしめ、古いタイプライターを買って有名人の手紙の偽造をはじめる。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

どん底にいた作家が生み出したのは本物以上の偽物。それは彼女の作品。お酒と悪態で膨れた体で猫を抱き、愛した人に会いに行く彼女は、目の前の壁をよじ登ったことで人を傷つけ、自分も傷ついたけれど、それまであんなに輝いていたことはなかった。

 

アカデミー賞主演女優賞助演男優賞にノミネートされるなど、世界的に高く評価された作品なのに、日本では劇場未公開。おまけに邦題もひどくて(原題は「私を許してくれますか?」)気の毒な作品なのだが、見ればわかるその面白さ。

 

だから騙されたと思って、ぜひ見てほしい。

 

これは1990年代に起きた手紙偽造事件をベースにした映画で、かつてのベストセラー作家がなぜそのような詐欺をするようになったのか、そのいきさつと心情がユーモアと悲壮感を交えながら巧みに描かれる。

 

落ちぶれた貧乏作家が書いた偽物は、本人が書くよりも本人らしい魅力に溢れていた。それがバレないということは、彼女の才能が認められたということ。お金のためだけじゃない。惨めな自分が久しぶりに肯定された。その心地よさもあったのだと思う。

 

だから彼女は、その犯罪にのめり込んでしまったのではないだろうか。偽造という創作への情熱。その喜び。プロとしての自負が、世間から忘れ去られた彼女にもまだ残っていた。

 

傲慢で人間嫌いの彼女が心を許したのは、1人のゲイだ。このキャラクターがまた胡散臭くて飄々としていてよい。奇妙な友情で結ばれた彼とのやりとりがスリリングだったり微笑ましかったり。シリアスとコメディが融合した演出がお見事。

 

主演は当初ジュリアン・ムーアが演じる予定だったそうだが、それはあまりにミスキャストだろう。この役に華があってはいけない。フツーの地味なオバサンだからいいのだ。

 

彼女は何に対しても正直で、自分のこともよくわかっているから、ダメ人間だけど憎めない。だって、ズルさと弱さと純粋さがごちゃ混ぜになっているのが人間だもの。悪態も洒落た皮肉が効いていて、さすがは作家。最後まで相変わらずなところも私は好きだ。

 

さて、あなたは彼女の罪を罰することができますか?

 

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