Kino

夏りょうこの空想映画館

美術館を手玉にとった男

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(C)Purple Parrot Films

原題:Art and Craft

2014/アメリカ/89分

監督:サム・カルマン ジェニファー・グラウスマン

出演:マーク・ランディス

あらすじ

2011年、アメリカ各地の美術館に展示されていた数々の名作が、ある男が造ったニセモノだったことが判明した。このセンセーショナルな事件に全米のメディアは騒然となりFBIも捜査に乗り出すが、その男マーク・ランディスがすべての作品を無償で寄贈していたため、罪に問われることはなかった。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

持ち込んだ絵画の来歴についてはウソをついているものの、確かに彼はそれを本物だとは言っていない。贋作を100枚以上描き、46もの美術館に出向いて寄贈の交渉をしただけ。

 

金目当てではないのなら目的は?彼は一体何者?その奇妙な行動の裏にある謎を知りたくなる。だからこのドキュメンタリーが作られた。

 

この映画を見れば、自分のやっていることを彼がどう考えていたのかがわかる。そうか。そういう域に達していたのか。だからバレてもやめようとしなかったのね。

 

もちろん騙された美術館側は怒り心頭だが、金銭的な被害はないし、プロとして贋作を見破れなかった恥ずかしさと情けなさで「負けた」感が残るばかり。また、彼の行動が許せなくて執拗に追い詰めようとする人物も登場するが、そもそも本人に罪の意識がないので、まるで独り相撲のようになってしまう。

 

結局彼は話題の人になり、なんと贋作展を開くまでになる。でも名誉にも全く興味がないので、居心地が悪そうな様子が可笑しい。

 

変だけどチャーミングで、何だか憎めない男。

 

「オリジナルの絵画など存在しない」と言う彼は、画家としての高い技術を贋作に注ぎ込んだ。人騒がせには違いないが、どこか痛快で稀にみるユニークな事件である。

 

彼は今もどこかで贋作を描き続けているのだろうか。

 

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新感染 ファイナル・エクスプレス

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(C)2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved.

原題:Train to Busan

2016/韓国/118分

監督:ヨン・サンホ

出演:コン・ユ キム・スアン キム・ウィソン マ・ドンソク 

あらすじ

ソウルでファンドマネージャーとして働くソグは妻と別居中で、まだ幼いひとり娘のスアンと暮らしている。スアンは誕生日にプサンにいる母親にひとりで会いにいくと言い出し、ソグは仕方なく娘をプサンまで送り届けることに。ソウルを出発してプサンに向かう高速鉄道KTXに乗車したソグとスアンだったが、直前にソウル駅周辺で不審な騒ぎが起こっていた。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

ネット映像では、人間が大量のゾンビに次々と襲われているのに、テレビのニュースでは、政府が暴動の収束を発表している。

 

こわっ!

 

ものすごいスピードで走りながら固まって襲ってくるゾンビは、まるでイナゴの大群。集団の力で、窓ガラスなんか簡単に突き破ってくるもんね。

 

そんなゾンビの弱点は、暗闇。奴らは暗くなると目が見えなくなるらしく、襲う相手が見えないから急に大人しくなるのである。それに気づいた人間たちが、長いトンネルを利用してゾンビのいない車両まで突破しようとするシーンは、極端な「動」と「静」への笑いと恐怖が混じりあい。緊張感がハンパない。

 

自分が助かるためには手段を選ばない悪役の登場が、ゾンビよりも人間の方が怖いということを改めて教えてくれ、個人的には高校生カップルの韓国ドラマ的純愛に胸きゅんだ。

 

今までのゾンビに比べて動きが妙に洗練されているのは、それがダンスのように振り付けされているからだろう。

 

誰かと一緒にワーキャー騒ぎながら観てほしい。

 

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帰ってきたヒトラー

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(C)2015 Mythos Film Produktions GmbH & Co. KG Constantin Film Pro duktion GmbH Claussen & Wobke & Putz Filmproduktion GmbH

原題:Er ist wieder da

2015/ドイツ/116分

監督:ダーヴィト・ヴネント

出演:オリヴァー・マスッチ ファビアン・ブッシュ

あらすじ

服装も顔もヒトラーにそっくりの男がリストラされたテレビマンによって見出され、テレビに出演させられるハメになった。男は戸惑いながらも、カメラの前で堂々と過激な演説を繰り出し、視聴者はその演説に度肝を抜かれる。かつてのヒトラーを模した完成度の高い芸として人々に認知された男は、モノマネ芸人として人気を博していくが、男の正体は1945年から21世紀にタイムスリップしたヒトラー本人だった。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

ナチス末期の状況下からボロボロの状態でタイムスリップしてきたヒトラー。彼はヒトラー本人なのだから、ドイツ人にとって最大のタブーであるヒトラーネタを自然に連発し、その際どさが評判を呼び、次第にマスコミに注目されてスターになっていくあたりは、ヒトラーが人心をつかんで独裁体制を築き上げていった過程を髣髴とさせて狙い通りだ。

 

しかし、ヒトラー時代を過ぎ去った昔のことだと思っているからこそ、ドイツ人も彼の存在をギャグとして受け入れているわけで、実は本物だと知ればシャレにならない。

 

現代によみがえったヒトラーは、愛国心に燃えていて好奇心旺盛。だから、国内を旅行していろいろな人たちの意見を聞く。そんな風に国民の不満に耳を傾け、若者たちと対話をしていくうちに、ドイツの抱える深刻な問題が浮き彫りに。

 

ドイツは全然いい国になっていないじゃないか!と怒るヒトラー

 

独裁者の意見にも一理あるかも。だんだんそんな気がしてきてしまう。

 

作品の中ではブレない彼に心酔した親衛隊ができるが、実際にロケ撮影でヒトラー姿の俳優を見て大喜びするドイツ人も少なからずいたらしく、今のドイツは一体どうなっているのかと考えてみる価値はありそうだ。

 

ブラック・コメディだと思って笑っているうちに、背筋がゾッとしてくる。

 

ドイツ人だから作れる。ドイツ人だから作った。そんな映画。

 

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映画『帰ってきたヒトラー』公式サイト

ヒトラーの格好にドイツ市民はどう反応したか? 『帰ってきたヒトラー』主演俳優インタビュー|Real Sound|リアルサウンド 映画部

映画『帰ってきたヒトラー』主演俳優に聞く「ヒトラーの姿を見て喜ぶドイツ人がいた事に驚いた」 | ガジェット通信 GetNews

 

歌声にのった少年

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(C)2015 Idol Film Production Ltd/MBC FZ LLC /KeyFilm/September Film

原題:Ya Tayr El Tayer

2016/パレスチナ/98分

監督:ハニ・アブ=アサド

出演:タウフィーク・バルホーム ナディーン・ラバキー

あらすじ

紛争の絶えないガザ地区に暮らし、「スター歌手になって世界を変える」ことを夢見るムハンマド少年は、姉ヌールと2人の友達とバンドを組み、ガザの町で歌っていた。(映画.comより)

 

支配人からのメッセージ

たとえ時間がかかっても、忘れさえしなければいつか叶えることができる。それが夢。平和と未来への希望をのせて、その歌声は人々の心に届いていく。

 

パレスチナガザ地区で暮らす幼い姉と弟は、友人とバンドを組み、ホコリだらけの道端で演奏しては小銭を稼ぐ日々。

 

2人の合言葉は、「スターになって世界を変えよう」。姉は弟の美しい声を絶賛し、彼の才能を心の底から信じている。だから弟は、歌うことをやめない。

 

夢には具体的な目標が必要。そこで2人が目指したのは、カイロのオペラハウスに出場することだった。

 

え?そんなことできるわけないでしょ?

 

でもこれは実話なのだから、本当に驚いてしまう。一体どうやって弟がスター歌手になったのか、彼の歩んだ困難な道が温かい眼差しを通して描かれている。

 

またこのお姉ちゃんが、物怖じしないポジティブな女の子でねえ。大人しい弟は、しっかり者のお姉ちゃんについていくという関係だっただけに、彼の喪失感は想像に余りある。

 

自分をまっすぐに信じてくれる存在というものは、これほどまでに心を支えるのだ。それは、どれだけ時が経っても消えることはなく、周りを巻き込んで大きな力となった。

 

夢はシンプルな方がいい。            

 

彼の歌声がパレスチナの希望そのものだということが、喜びに沸く街の映像からひしひしと伝わってくる。住民にとって彼は他人ではない。あなたは私。私はあなた。奇跡はこうやって生まれるんだなあ。

 

彼の歌声は、パレスチナの希望そのものだ。喜びに沸く街の映像がスクリーンいっぱいに流れると、ついもらい泣きしてしまいそうに。

 

人生を変えるオーディション番組よ。バンザイ!

 

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映画「歌声にのった少年」公式サイト » INTERVIEW&PROFILE

インタビュー『歌声にのった少年』パレスチナ・ガサ地区の少年にこだわった演出の舞台裏をハニ・アブ・アサド監督が語る-- - シネフィル - 映画とカルチャーWebマガジン

「これまでの作品で一番自分に近い映画」と語る『歌声にのった少年』ハニ・アブ=アサド監督インタビュー|「撮影で最初にガザに入った時は、瓦礫の山を見て泣くしかできませんでした」 - 骰子の眼 - webDICE

 

歌え!ロレッタ 愛のために

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原題:Coal Miner's Daughter

1980/アメリカ/126分

監督:マイケル・アプテッド

出演:シシー・スペイセク リン - トミー・リー・ジョーンズ ビヴァリー・ダンジェロ

受賞歴:アカデミー賞主演女優賞 ゴールデングローブ賞作品賞・主演女優賞

あらすじ

現代アメリカのポップス界で、シンガー・ソングライターとして人気のあるロレッタ・リンの生いたちから、結婚、出産を経て歌手として成功するまでの波乱の半生を描く。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

家事や育児の合間に歌を作り、それを子どもたちに聴かせる。生活の中から生まれた歌は子守歌であり、労働歌であり、愛の歌。

 

名曲というものは、そんなリアリティの中から生まれる。

 

独学で作詞作曲して演奏までこなし、のちカントリーの女王と呼ばれた実在の歌手ロレッタ・リン。出会ったばかりの男性と13歳で結婚した彼女は、もともと音楽を聴くのは大好きだったが、ひょんなことから自分も歌ってみたら歌えた。そんな軽やかさで歌手になる。ちなみに主演女優の歌声は、吹き替えなしだという。

 

彼女の歌は身近な愛情や葛藤をモチーフにしているのが特徴で、6人の子供を産んだ体験から避妊を訴えたり、夫の浮気に対する怒りを込めるなど、リアルな女心を歌詞に乗せる。そのオリジナリティが面白い。

 

しかし、大スターになった彼女は忙殺されるあまり、神経をすり減らしてしまう。

 

彼女の才能を見出し、業界に必死で売り込んでくれたのは、粗野で不器用な夫だった。

 

妻を愛しながらも自分の居場所を見つけられない彼と、成功の陰で孤独にさいなまされる彼女。そんな複雑な夫婦関係が、破綻と再生の間を揺れ動きながらどこに着地するのか。

 

緊張感のある展開なのにどこか呑気な空気が漂っているのは、80年代の映画だからだろう。歌は人生だと教えてくれる作品。

遠い空の向こうに

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原題:October Sky

1999/アメリカ/108分

監督:ジョー・ジョンストン

出演:ジェイク・ギレンホール クリス・クーパー クリス・オーウェン ローラ・ダーン

あらすじ

米ソ冷戦時代のアメリカ、コールウッド。ここに生まれた男は誰もが将来炭坑夫になると約束されたこの町で、高校生ホーマーは自分の将来に不安を感じていた。そんな1957年10月4日。ホーマーは星空を美しい軌跡を描いて飛んでいくソ連人工衛星スプートニクを見る。宇宙の夢に魅せられたホーマーは悪友たちと「ロケット・ボーイズ」を結成、ロケット製作に夢中になるが、父はそんなホーマーを理解できず、二人は衝突する。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

NASAのロケット・エンジニアになったホーマー・ヒッカムの自伝を映画化。

 

ということは、彼は夢を叶えたんですね。

 

夢を忘れなかった本人も素晴らしいが、彼を取り巻く大人たちにも注目したい。

 

コンテスト優勝という夢への扉を教えた物理の先生。そして頑固な父親。

 

炭鉱夫としての誇りを持ち、真面目で責任感の強い父親にとって、故郷を飛び出して宇宙まで羽ばたいていきたいと願う息子の気持ちは、理解を超えてむしろ恐ろしかったのも無理はないだろう。

 

「情熱が周りを動かす」という言葉がそのまま当てはまるような実話ストーリーだが、主人公の純粋な気持ちと人々の温かい支えが、ひと味違った青春映画として心に残る。

 

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運動靴と赤い金魚

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原題:Bacheha-Ye Asen

1997/イラン/ 88分

監督:マジッド・マジディ

出演:ミル=ファロク・ハシェミアン バハレ・セッデキ

受賞歴:アカデミー賞外国語映画賞ノミネート                   

あらすじ

小学生のアリは修理してもらったばかりの妹ザーラの靴を買い物の途中でうっかりなくしてしまった。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

子供は宿題よりも先に家の手伝いをし、たった1足の靴を失くしても、貧しさゆえにそのことを言い出せない。

 

昔の日本もそうだったと思う。

 

幼い兄と妹が子供なりに知恵を出し合い、1足の靴を分け合ってピンチを乗り切ろうとするシンプルな物語だ。

 

学校が終わると妹は、靴を待っているお兄ちゃんの所へまっしぐら。たったったったっ。必死に走る健気な後ろ姿ときたら。それをジリジリと待つお兄ちゃんの半ベソ顔ときたら。

 

子供らしい綱渡り的な計画に、「ああ、どうかハプニングが起こりませんように」とハラハラしながら祈るばかり。

 

靴を失くすという小さな事件を通して見え隠れするイランの現実が、じわりと心に迫る。

 

言葉にしなくても彼らの感じていることが雄弁に伝わってくるという演出の力強さ。きっとこの監督は観客を信じている。子供を使ったお涙頂戴の映画とは一線を画す秀作である。