Kino

夏りょうこの空想映画館

LION/ライオン ~25年目のただいま~

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(C)2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia

原題:Lion

2016/オーストラリア/129分

監督:ガース・デイビス

出演:デーヴ・パテール ニコール・キッドマン ルーニー・マーラ

あらすじ

1986年、インドのスラム街で暮らす5歳の少年サルーは、兄と仕事を探しにでかけた先で停車中の電車で眠り込んでしまい、家から遠く離れた大都市カルカッタコルカタ)まで来てしまう。そのまま迷子になったサルーは、やがて養子に出されオーストラリアで成長。25年後、友人のひとりから、Google Earthなら地球上のどこへでも行くことができると教えられたサルーは、おぼろげな記憶とGoogle Earthを頼りに、本当の母や兄が暮らす故郷を探しはじめる。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

驚くべき実話!

 

突然独りぼっちになってしまい、列車の中で泣き叫ぶ不安な気持ち。わけもわからないまま過ごした路上生活の過酷さ。親切だと思っていた大人に裏切られ、街をウロウロするしかなくなった心細さ。

 

私たちもサル―と同じ視点で世界を見つめ、同じ気持ちになって迷子になる。そう感じさせてくれるアングルとカメラワークが素晴らしい。

そして後半は一転、温かい家庭に引き取られたサル―は幸せな日々を過ごし、優しくて賢い青年に成長するが、ここで問題児の義兄が登場。彼はどうやら深い傷を負った生い立ちを抱えているようで、養父母はこのことで悩むが、養子縁組がうまくいくことばかりでないという現実にもきちんと触れているところが、この物語をより豊かなものにしている。

 

ニコール・キッドマン演じる養母の母性にも、胸を揺さぶられる。

 

特に、子供を産めないわけではないのにあえて養子縁組を選択した彼女が、その理由について「世の中には、まだ不幸な子供がいっぱいいるから」と語るシーンは、そんな考え方があったのかと目からウロコ。実生活でも養子をもつニコール・キッドマンならではの説得力もあり、心にズシンと残るセリフだ。

 

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殺人の追憶

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写真:Photofest/アフロ

原題:Memories of Murder

2003/韓国/130分

監督:ポン・ジュノ

出演:ソン・ガンホ キム・サンギョン パク・ヘイル

受賞歴:大鐘賞作品賞・監督賞・主演男優賞受賞。

あらすじ

韓国で実際に起きた未解決殺人事件をリアルな演出で映画化。86年、ソウル近郊の農村で、同じ手口による若い女性の惨殺事件が連続して発生。地元の刑事パク・トゥマンとソウル市警から派遣された刑事ソ・テユンは対立しながらも捜査を続け、有力な容疑者を捕らえるのだが。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

クエンティン・タランティーノ監督が「お気に入り映画トップ20」に選ぶなど、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のポン・ジュノ監督が国際的な評価を受けるきっかけとなった記念碑的作品。

 

地元の中年刑事と都会からやってきた若い刑事。片やアナログ捜査をモットーとする熱血タイプで、もう1人は科学捜査を信じるクールなタイプだったが、次々と犠牲者が出るわ犯人をなかなか捕まえられないわで、焦りと犯人に対する憎しみが募るあまり、2人の関係性が変わってしまう。

 

気がつけば、被害者の陰惨な殺され方に震えるほどの怒りを覚え、点滴を打ちながら必死に捜査をする刑事たちを心から応援してしまう私たち。

 

特に、捜査がギリギリのところで頓挫してしまうのがもどかしく、そんな感情移入が思いっきりできるリアルさも良質なサスペンスの証だろう。

 

この映画ではとにかく雨がよく降るが(そもそも韓国映画はよく雨が降る)、それにはちゃんとした理由が…どしゃぶりのシーンでは、若い刑事の鬱積した狂気が一気に爆発してカタルシスを味わえる。

 

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宇多丸、ポン・ジュノ、ソン・ガンホ『殺人の追憶』を語る

 

 

ジュリーと恋と靴工場

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(C)2016 LOIN DERRIERE L’OURAL – FRANCE 3 CINÉMA – RHONE-ALPES CINEMA

原題:Sur quel pied danser

2016/フランス/84分

監督:ポール・カロリ コスティア・テスチュ

出演:ポーリーヌ・エチエンヌ オリビエ・シャントロー

あらすじ

25歳で職なし、金なし、彼氏なしのジュリーは、やっとのことでフランスのロマン市にある高級靴メーカーの工場での仕事に就くことができたが、工場は近代化の煽りを受け、閉鎖の危機に直面していた。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

近代化の波に抵抗しようとする職人魂が、歌とダンスを通して炸裂!

 

と言いたいところだが、そこはおフランス。ポップだけど上品で控え目。ポップだけど上品で控え目。感情を歌い上げることはなく、あくまでもささやくように自然に。ダンスにも、ミュージカル特有のあのワクワクした非日常性はない。

 

だって、踊っているのが普通のオバサマたちなんだもん。そういうリアリティを狙っている?なので、プロのダンサーがバリバリ踊るイメージを抱いていると、物足りないかもしれない。

 

突然切り捨てられそうになった彼女たちは、尊厳と権利を守るために声を上げる。それは労働者による一致団結というよりも、泣き寝入りしないで闘おうとする女の姿。一方、やっとのことでこの仕事にありついた主人公は傍観していたものの、周りに影響されて自分の意志に目覚めていく。

 

靴は女性の象徴なのだろう。工場にしまい込まれていた靴には名前がついていて、その中にあった赤い靴が彼女たちの武器になる。

 

といっても、そこはおフランス。労働運動に恋が絡んでくるあたり、ふ~ん、やっぱり女の幸せ探しに恋は欠かせないのかと実感。そして彼女は自分を見つめ、相手を受け入れることを知る。

 

若い恋と悩みをコメディ・タッチで綴ったフレンチ・ミュージカル。靴のかかとを鳴らして、いざ出陣!

 

 

 

ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ 

f:id:naturyoko:20200809063053j:plain原題:BUENA VISTA SOCIAL CLUB

2000/ドイツ・アメリカ・フランス・キューバ/105分

監督:ヴィム・ヴェンダース

出演:エリアデス・オチョア ライ・クーダー

受賞歴:アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート    

あらすじ

グラミー賞受賞アルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」に参加したミュージシャン達とのその後を追ったドキュメンタリー。熱い日差しのキューバで再集結してのレコーディング、アムステルダムそしてニューヨークのカーネギーホールでの栄光のステージが世界中の感動を呼び、各地でロングランを記録して空前のキューバ・ブームを巻き起こした大ヒット作。(映画.comより)

 

支配人からのメッセージ

それまで「ベルリン天使の詩」「パリ、テキサス」といった映画史に残る名作を手がけてきたヴェンダース監督が、「キューバ音楽に魅せられた」と言って突然このドキュメンタリーを発表した時、ファンはそりゃあ驚いた。

 

しかし作品を見てみると、キューバ音楽に対する監督の愛は本物。それは一時的な気の迷いではなかったのだなあと胸をなでおろしたのであった。

 

ライブの様子がじっくりと流れ、スクリーンから溢れるリズムと深い歌声に酔いしれるが、高齢のメンバーたちがハバナの街並みや生い立ちについて語るシーンも多く映し出されるのが特徴。

 

音楽だけでなく人間にも興味があるのね。

 

何よりも、メンバーの瑞々しい感性に触れて若返るような気持ちになるから不思議だ。この

アルバムの成功により、ついに音楽の殿堂カーネギーホールで公演を実現させたところで映画は終わる。

 

ちなみにその時のライブは、「ライヴ・アット・カーネギー・ホール」というアルバムになっているので、こちらも合せてどうぞ。

今だからこそ話せる!「ブエナ・ビスタ」大ヒットの“裏側”を、シネマライズ支配人が激白 : 映画ニュース - 映画.com

トップインタビュー:鈴木英夫 ブエナビスタ インターナショナル ジャパン日本代表 - 文化通信.com

 

シャンドライの恋

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原題:L'assedio

1998/イタリア/94分

監督:ベルナルド・ベルトルッチ

出演:タンディ・ニュートン デビッド・シューリス

あらすじ

ローマにある古い屋敷に住む、英国人音楽家キンスキーと住み込みの使用人シャンドライ。健気な仕事ぶりからシャンドライを愛するようになったキンスキーは彼女に愛を告白するが、驚いたシャンドライは「じゃあ夫を刑務所から出して!」と口走ってしまう。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

内気で孤独なイギリス人男性と、その屋敷で働いているアフリカ人女性。人種も育った環境も何もかも違うこの2人の恋を、イタリアの名匠が美しい映像と音楽で描いた映画。

 

2人の恋は、男の一方通行から始まる。

 

いやはや私も多くの映画を見てきたが、こんなに唐突で激しくて不器用で気持ちの悪い告白を見たのは、初めてかも。何がどうなっていきなりそんなことに…よほど深刻な闇を抱えていて、なりふりかまわず彼女に救いを求めているのだな、ということが一瞬で伝わってくる切ないシーンだ。

 

彼はピアノ教師なので、家の中ではいつもモーツァルトやバッハの曲が流れている。一方、彼女はスパイシーな料理を作りながら、リズミカルなアフリカン・ポップスを聴いている。その2つの音楽が次第に交じり合ってゆく様が2人の心を表していて、この“融合”も見所の一つだ。

 

しかしなんといってもこの映画のテーマは、“無償の愛”だろう。大切な人のために大切なものを差し出す。何も言わずに(ここが肝心)。この作品に女性ファンが多いのは、そこにグッとくるからだ。

 

それに加えて、ラストから始まる新しい展開にもドキドキ。えらいこっちゃ。

 

関連ニュース

https://kurarc.exblog.jp/18518631/

ベルナルド・ベルトルッチが死去、オスカー9冠「ラストエンペラー」などを監督 - 映画ナタリー

 

カルテット! 人生のオペラハウス

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(C)Headline Pictures (Quartet) Limited and the British Broadcasting Corporation 2012

原題:Quartet

2012/イギリス/98分

監督:ダスティン・ホフマン

出演:マギー・スミス トム・コートネイ ビリー・コノリー ポーリーン・コリンズ

受賞歴:ゴールデングローブ賞最優秀主演女優賞ノミネート

あらすじ

引退した音楽家たちが暮らす「ビーチャム・ハウス」で穏やかに余生を送るレジー、シシー、ウィルフのもとに、昔のカルテットメンバーでありながら、野心とエゴで皆を傷つけ去っていったジーンがやってくる。近く開かれるコンサートが成功しなければハウス閉鎖という危機を迎え、誰もが伝説のカルテット復活に期待を寄せるが……。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

音楽があれば、いくつになっても人生を楽しめる。

 

とにかくまあイギリス名優たちの芸達者なこと。いや、この映画の魅力は、演技経験のない本物のミュージシャンたちが出演していることかもしれない。「演技はしなくていいから、今感じていることをそのまま」とアドバイスしたという監督は、年を重ねるとはどういうことかをそのまま観客に見せたかったそうだ。実際映画の中には、認知症の症状が見え隠れするキャラクターも登場する。  

     

最大の見せ場は、オペラの名曲が流れるコンサート・シーンであろう。

 

ゴタゴタした人間関係で心がバラバラになってしまった4人が偶然ホームで再会し、もろもろの恩讐を超えて「美しき愛らしい娘よ」(「リゴレット」)を歌う。かつては大スターだった4人。その伝説的カルテットが老境を迎え、それぞれの想いを胸に十八番を歌うクライマックスは感動的である。

 

まあ若い頃は、エゴで人を傷つけたりするからね。でも、もういいやん。昔のことは水に流して、残された時間を一緒に過ごそうよ。それはきっと、深い味わいのある人生。

 

このホームのモデルになった施設がミラノに実在するというから、驚きだ。音楽家たちが最期まで尊厳をもって音楽に向かい合えるよう作曲家ヴェルディが私費を投じて創設し、この映画のような練習室とホールもあるらしい。さすがオペラの都イタリア!

 

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ある女流作家の罪と罰

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原題:Can You Ever Forgive Me?

2018/アメリカ/106分

監督:マリエル・ヘラー

出演:メリッサ・マッカーシー リチャード・E・グラント

受賞歴:ゴールデングローブ賞最優秀主演女優賞・最優秀助演男優賞ノミネート アカデミー賞主演女優賞助演男優賞・脚色賞ノミネート

あらすじ

かつてベストセラー作家だったリーは、今ではアルコールに溺れて仕事も続かず、家賃も滞納するなど、すっかり落ちぶれていた。どん底の生活から抜け出すため、大切にとっていた大女優キャサリン・ヘプバーンからの手紙を古書店に売ったリーは、セレブからの手紙がコレクター相手に高値で売れることに味をしめ、古いタイプライターを買って有名人の手紙の偽造をはじめる。(映画.comより)

 

夏りょうこからのメッセージ

どん底にいた作家が生み出したのは本物以上の偽物。それは彼女の作品。お酒と悪態で膨れた体で猫を抱き、愛した人に会いに行く彼女は、目の前の壁をよじ登ったことで人を傷つけ、自分も傷ついたけれど、それまであんなに輝いていたことはなかった。

 

アカデミー賞主演女優賞助演男優賞にノミネートされるなど、世界的に高く評価された作品なのに、日本では劇場未公開。おまけに邦題もひどくて(原題は「私を許してくれますか?」)気の毒な作品なのだが、見ればわかるその面白さ。

 

だから騙されたと思って、ぜひ見てほしい。

 

これは1990年代に起きた手紙偽造事件をベースにした映画で、かつてのベストセラー作家がなぜそのような詐欺をするようになったのか、そのいきさつと心情がユーモアと悲壮感を交えながら巧みに描かれる。

 

落ちぶれた貧乏作家が書いた偽物は、本人が書くよりも本人らしい魅力に溢れていた。それがバレないということは、彼女の才能が認められたということ。お金のためだけじゃない。惨めな自分が久しぶりに肯定された。その心地よさもあったのだと思う。

 

だから彼女は、その犯罪にのめり込んでしまったのではないだろうか。偽造という創作への情熱。その喜び。プロとしての自負が、世間から忘れ去られた彼女にもまだ残っていた。

 

傲慢で人間嫌いの彼女が心を許したのは、1人のゲイだ。このキャラクターがまた胡散臭くて飄々としていてよい。奇妙な友情で結ばれた彼とのやりとりがスリリングだったり微笑ましかったり。シリアスとコメディが融合した演出がお見事。

 

主演は当初ジュリアン・ムーアが演じる予定だったそうだが、それはあまりにミスキャストだろう。この役に華があってはいけない。フツーの地味なオバサンだからいいのだ。

 

彼女は何に対しても正直で、自分のこともよくわかっているから、ダメ人間だけど憎めない。だって、ズルさと弱さと純粋さがごちゃ混ぜになっているのが人間だもの。悪態も洒落た皮肉が効いていて、さすがは作家。最後まで相変わらずなところも私は好きだ。

 

さて、あなたは彼女の罪を罰することができますか?

 

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